坂田英三 旧ブログ

2013年までのブログです

故郷は与太郎

富吉温泉には感慨がわかなかったが、私にとって感慨深いのは温泉の住所。
愛知県海部郡蟹江町大字蟹江新田字与太郎175
実は私の実家もこの「字与太郎」であったのだが、1月に簡略化され、蟹江町富吉となり、わが愛する「与太郎」がなくなった。確かに与太郎の住所は長過ぎて、郵便局や銀行の書類の住所欄に入りきらなかったり、画数も多くて時間がかかったので、簡略化は大助かりだが、私程度の落語好きには過ぎたるともいえるこの変な住所がなつかしい。この種の変更は自動的にすべてなされるのかと思いきや、役場郵便局以外は住民が自分で住所変更手続きをしないといけなかった(だから全てはできていない)。同時に番地も変わったのだが、実際に届く宅急便の住所は今でもボールペンで「与太郎」時代の古い番地が書き加えられている。

帰パリ第一日

昨日の晩無事にアトリエに戻り、早々予定らしきものも会ったのだが、無理はやめて早く寝た。
お陰で7時に眼を覚ましたが、寒いし、悲しいかな外は真っ暗。でもやることは一杯。第一は衣替え。季節は2ヶ月ですっかり変わった。籠に入れっぱなしだった洗濯物を洗い、朝市で買い物。やっと明るくなった陽の光で帰仏第一の「毎日のデッサン」、簡潔にすっきりとしたものを描くつもりがぎちゃぐちゃになってしまったが、まあそれでよしにして、貯まった郵便物の片付にかかる。不況およびクリスマスを反映してか、あるいは夏に盲導犬の募金に協力した所為か、何通もの募金案内が来ていた。わかるけどなーと心を痛めつつ、でも何故こんないらないペンとか手帳とか送ってくるのだろうと不満不信を覚えつつ税務署からの封筒を開くと830ユーロの請求が来ている。これは大変。でも思い起こすと昨年もあった同じ間違いでデータの訂正不備を責めたいところだが、支払い期日はとうに過ぎているので丁重に返事を書いた。そして銀行口座、うっかり月初めにチェックをし忘れていたら意外に大きくマイナスになっていたが、その原因は去年から自動振込にした住民税だった。あーあ、すっかり日常に戻った。

今年っきりの富吉温泉

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昨日片山津温泉のことを書いたが、今日はもう一つの気になる温泉、富吉テルマ55へ。これは私の愛知県の実家から歩いて10分(近鉄富吉駅から5分)の「天然温泉」(確かに鉱泉の香りもする)へ。ここは20余年間営業していたのだが、施設老朽化のため今年限りで閉まることになった。つまり今度私が帰国する時にはもうない。何回かは行ったことがあるはずだが、入ったが全然記憶がない。ウェブガイドのあったこの写真のように浴場としては規模は大きく、大浴槽が温度別に3つあり、加えてジャクジー、サウナ、水風呂、露天風呂まであるのだが、銭湯を巨大にしたという有様で、もう一つ特徴がない。 
画廊で会った富山から来た温泉好きの富山のミュージシャンの「大谷氏」さんが、最後と言うことでわざわざここへ行き、「初めてなのに何故か感慨に耽った」と面白いことを言っていたが、さほどの感慨に浸れなかった私には、これは温泉好きならではの名言かと逆に味わい深かく感じた。

(後日「大谷氏」を検索したところ。こんな面白いパーフォーマーだと言うことがわかりました。私の好みは1曲目:
http://www.youtube.com/watch?v=iF0rTExJtPM

ピンポイント観光

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25(日)に個展が終わり、ほっと一息。先週は外国人特権のJRパス(所謂JR線のフリーパスで、私は日本国籍だが永住ビザ同等があるので購入可)を利用して、不思議な旅をした。名付けてピンポイント観光。

例えば金曜日の午前に神戸元町で知合いの個展を見て、天気がよかったのでちょっと散歩、そしてひかりで東京に夕方着、経産省前の反原発集会に参加。その晩 は東京の兄の家に泊まり、土曜はまた別の知合いの個展を銀座で見、友人と昼食を食べて愛知の実家に戻った。そして日曜日の朝は早く起きたので朝食抜きで名 古屋に向かう。岡山行きひかり(また「ひかり」、実はJRパスはのぞみに乗れない!)が出発直前だったので乗車、時刻表を見ると米原で金沢・富山行きの朝 一の特急しらさぎに連絡する。新幹線内の電光掲示板の天気予報では、北陸の天気が太平洋岸よりよさそうだ。これで行き先は決まった。片山津温泉

ここには現代的なコンクリート打ちっぱなしで4月にオープンしたばかりの「まちの湯」があり、気にかかっていた。2つの浴場があり男女交代制、男性が柴山潟を一望する展望のよい湯に入れるのは「偶数日」ということは既に調査済みだった。加賀温泉で下車するとバスは1時間後しかない。まあこれは行き当たり ばったりの旅だから仕方がない。列車に社内販売サービスがなかったので結局朝から何も食べていないので、ちょうどよいぐらいだった。時間潰しに入った駅前 ビルで往年の名画DVDが250円、なんでこんなところでと思いつつ、ルネ・クレール監督の「パリの屋根の下」ほかを購入。幸いにしてバスの時刻が迫りバ ス停に行ったが誰もいない。結局バスなんか利用するのは私のみだった。

着いた「まちの湯」は湖岸に立地したガラス張りの建物でいかにも見晴らしがよさそう(写真)。更衣室も風呂も木とコンクリートのすっきりしたデザインで気 分が良い。だが湯船は宣伝の写真から受けた印象に反して意外に小さく、ちょっとがっかり。でも全体に「共同浴場も変わった!」と私は感じ入ったが、後で話 した地元のおばあさんは「情緒がないわ。昔の湯がよかった」と嘆いていた。万人を満足させるのは難しい。でもこのデザイン風呂はフランス人にもうけそうだ。
「湯水のごとく」とはよく言ったもので、お湯は熱い湯から温い湯に至り、湖岸側の窓際に溢れ出る。「日本は資源のない国」と子供の頃から刷り込まれてきた が、何故このほぼ無尽蔵な熱エネルギーを温泉以外に使えないのか不思議だ。「タービン回して電気を作る」ことに固執しすぎだと私は思うのだが。

さて風呂を出てバスまでまた1時間、ここまできて何故イタリアンとは思ったが、安直に眺めのよい2階のレストランで食事をすることにした。白山方面の山はもう雪を冠している。ヌーヴェルキュイジーヌさながらの華奢な前菜のあと、きれいに蟹をあしらえたパスタがでてきたが、これが結構硬め。実は木曜日に京都東山のSODOHという、日本画竹内栖鳳の邸宅をレストランにしたイタリアンを食べたのだが、ここのパスタの「固ゆで」 は私の硬めリミットを超えていた。正直に「硬い」と文句を付けたところ「シェフによるとこの程度が当店のアルデンテですが、柔らかめに作り直しました」とのことで2杯目のパスタがでてきたが、本当に柔らかくなったのかわからないほど微妙で、試されたような???
私は当然何度もイタリアでパスタを食べている。上等なレストランには行ったことがないが、パスタが庶民の食べ物だとしたら日本のシェフの茹で加減に疑問を差し挟む権利は私にもあるはず。日本の常で何処かの大先生に「騙されて」いるのではないかなー?

先のおばあさんは「山中温泉のほうが湯船が広くていいよ」と言っていた。まだ十分行ける時間だがあっさり次回に繰越し。前回展示入替え中で入れなかった金沢の21世紀美術館も念中にあったが、上りの特急が来たのであっさり名古屋に戻ることにした。これがJRパスを使った贅沢なピンポイント観光のピンポイントたる所以なのだ。

豊田市美術館遠征

イメージ 1豊田市美術館へは十数年前、まだ私が飛び込みで宣伝活動をするだけの元気(野心?)があった頃、その頃の学芸部長さんが会って下さると言うので行ったところ、当日朝まで雪が降り、道には雪が積もるし美術館は丘の上だしで、大変な苦労をしてたどり着いた思いた。その所為でも「ものすごく遠い」という記憶があるが、秋晴れの昨日は昔と大違いで、駅からの道は何のことはなかった。但し私の実家は名古屋の西だから、豊田駅までですでに鉄道片道1時間半はかかる結構な遠出には違いない。第一の目的は青木野枝展、加えて私の好きなトニー・クラッグ(11年2月8日参考)や草間弥生などの「オルガニック・フォーム」という所蔵作品展があり、名だたるアーティストの中にLギャラリーの小島さんのビデオもあるというのだから、遠くても行くしかないよね~。(かつコレクションの質の高さには以前も感心させられたし)

青木野枝は硬くて重い鉄という素材で軽々とした作品を作る。私が好きな日本の作家の一人だ。展覧会名にもなる「ふりそそぐものたち」は数珠が何本か天から垂れ下がったような作品で(高さ10mぐらい?)、実際バーナーで切った粗雑な縁の鉄の円板が幾つも溶接して数珠つなぎにされて立っている。溶接箇所の数は半端ではない。展覧感案内に、作家本人が行うワークショップで「溶接をする」と書いてあり、「何それ」と思っていたが「よぽど溶接好きな人だなー」と妙に納得した。最近自由に写真を撮らせてくれるヨーロッパの美術館と違い撮影禁止だったので、イメージは検索して下さい。粗雑(細部)ながらしなやか(全体)で、フランス人の私(?)にはノエという名前ゆえか(仏語でノエは「ノアの箱船」のノア)天上から神に曵かれた加護の網のようにも感じられる。パンフレットには「重量を感じさせず、上昇や生成の気韻を生じさせる」と要約されていたが、そのとおりだと思う。80年代、同じく女性彫刻家の宮脇愛子は天に描いた一筆書きのような金属ワイヤ彫刻で一世を風靡したが(パリのデファンスにもあったが、今もあるのかしら)、ヨーロッパの「我ここにあり」という重量感に対し、時の中でのうつろぎを感じさせるのは日本人、特に女性の秀でた感性だろう。溶接彫刻の外、数点の制作ヒント写真のような平面作品と、最後に巨大な石膏の作品があったが、あれは何なのかな?(ちっとも面白くなかった)

美術館テラスに出てびっくりしたのはダニエル・ビュラン Daniel Buren(例えば6/3参考)。3つ赤・黄・青の鏡のキューブのパビオン(天井無し)は内部がそれぞれの色で、4つの入り口の正面に同じ色の入り口大の壁(裏は鏡、側面にはいつものストライプ)が立つ。以前あったかなァ?(覚えがない。雪の所為か)。鏡の反射とパースペクティブは誰しも推察するところのものだが、やっぱり何やら面白い。彼のやることは単純で効果的。だからフランス国家お抱えアーティストで、大予算で同じような縞しまプロジェクトばかりの、嫌われ者(?)のビュラン氏だが、私は一目置いているのだ。ここで子供が「丸見えのカクレンボ」をしていたのがとても印象に残った。

L Gallery

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日本の画廊は大半はレンタルの貸し画廊、企画展を行う画廊でもレンタルと企画の並立ということが多いが、前回書いたように L Gallery は異色の「純粋なる企画画廊」。その秘密はオーナー。実はここの経営者は金沢の21世紀美術館豊田市美術館に作品が収蔵されている造形作家の小島久弥さんで、彼が見せたいと思う作家の企画展しか行わない(そして彼はキューレータに徹し、自身の作品も出さない)。ヨーロッパだとお金持ちの道楽とか税金逃れみたいな企画画廊もあるが、小島さんはその例ではないようで、奥のデザイン事務所で日夜仕事をされている。名古屋だと中心街の伏見、栄に画廊が集中しているが、L Gallery は名古屋の東の住宅街にぽつんと離れてあり、入り口もインターホンを押さねば入れないので、来訪者は知る人のみ。こうした画廊の性格上、作家さん、学生さんの来廊が多いが、そういう「業界」(?)の方々からも今回の個展は好評。ですから是非来て下さい!(というものの私のブログの読者は指折り数えられる程度だからな~。あっ、また日本人に嫌われるネガティブシンキング。桑原桑原、こうならないように画廊では私の大好きな鯉江良二さんの妙な招き猫に冬瓜を二つお供えしてあるのだが、、、ご利益がありますように!)
冬瓜は「夢の浮き箸」でも重要なエレメント。これは実家近くの農家の人にもらいました。生まれついての貧乏性か、私の作品は実に安上がりなのです。逆に予算100万円といわれると困ってしまう(全額ポケットに入れても良いのなら別だが、普通そういう予算割は許されなくて、、、)。

個展オープン

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先日の写真のように画廊の床で試作した割り箸と爪楊枝、それに木の枝と冬瓜を使ったアラベスク風飾り窓(?)「夢の浮き箸」も完成し、個展は3日(土)無事にオープンした。今回も広いとは言えない画廊スペースに、「日々のデッサン」「雨の絵」「塩の絵 - 海水のストライプ」といった色々な作品を展示。加えてビデオで昨年のスペインとブルターニュでの活動を中心に屋外インスタレーション作品を紹介。ユーチューブに掲載した9年前の「パリの白夜」でのモンパルナス美術館の「キス集め」のビデオも見せ(10/3 参照)、3月のイスタンブールで始まった「2012 キスの旅」の一環としてオープニングパーティーで写真の様に「実演」して、皆さんに楽しんでもらった。オープン前にも大阪からK姉妹が来て下さり作品に赤丸が付いて、快調以上で滑り出した個展だが、日曜日はどちらかというと静かで、、、11月は祝日が多いからと会期を決めたのだが、逆に色々予定がある方も多いようだ。現地制作の「浮き箸」もあるし(注;美術館ならまだしも、作家の制作に1週間も空けるというの画廊はごく稀、つまり L Gallery(左のリンク欄参照)は本当の「現代美術画廊」な訳です)、美術愛好家をはじめなるべく多くの人に見てもらいたいのだが、、、。デッサンはカラフルだし「具象」なので「今までの私の個展で一番わかりやすい」との声もありました。皆さんお誘い合わせの上ご来場ください。コンクリートの打ちっぱなしのビルです。
掲載写真の奥に画廊のベランダに釣られた「夢の浮き箸」も見られますが、わかるでしょうか? 本物を見に来て頂きたいし、なかなかいい写真が撮れないので、それはまた今度。