坂田英三 旧ブログ

2013年までのブログです

サリンジャーの死

先月27日、半世紀を経て絶えず多くの思春期の若者のバイブルであり続ける小説「ライ麦畑で捕まえて」で有名なサリンジャー(J.D.Salinger)が亡くなった。読書好きの友達、ジャン=シャルル(J.C. Boilevin)が一文をメールして来た。私はこれを読んで40年ぶりに「ナイン・ストーリーズ」を再読してみたくなった。皆さんにもそういう効果があるかもしれないので、有名な「ライ麦畑」および私生活を隠し通した生涯などは新聞などに譲り、追悼の意味で心のこもったジャン=シャルルのメールの後半をここで訳して紹介する。

「(…前略…)もし無人島に持って行く本を10冊選ばねばならないとしたら、サリンジャーの、1940年代後半の9つの物語からなる『ナイン・ストーリーズ』はその中の上位に入るだろう。

予期できない自殺で終るへんてこな話の『バナナフィシュにうってつけの日』。サリンジャー自身のように戦争の精神的後遺症を残す兵隊が、喫茶店で極めて知的な少女に出会った記憶を語る『エズミに捧ぐ――愛と汚辱のうちに 』。繊細で滑稽、そしてすごい。最後に私の大好きな『笑い男』。ボーイスカウト班長が班員のために、子供の頃に人さらいに万力で歪められた口の、パリから中国にぬける秘密の通路を知っている"大怪人"と呼ぶに相応しい主人公の物語りを作り出す。子供の一人によって語られるその話での大事件は、バスでの遠足、野球の試合と参加、若い班長が恋したメアリーの出発。全てが同じ現実の次元。あるいは架空の次元。

サリンジャーの態度を判定することは我々には相応しくないだろう。彼が自らの内に籠ってしまうまでに、幻滅させられる前の世界への秘密の通路を知る幾つかの人物像を我々に残してくれたことに感謝しようではないか。(引用終)」


近くの大型書店に出かけたのだが、再読したくなった人が多いのか売切れ。手持ち無沙汰でぶらぶらしていたら、ゴンブリッチの平易で明晰な古典的名著「美術史」の文庫版があり、急に読みたくなって買って来た。ギリシャの遺跡の所為か?

ちなみにジャン=シャルル君のサイト(仏語)は
http://ecrituriste.over-blog.com/