坂田英三 旧ブログ

2013年までのブログです

アーティストと職人

アナモルフォーズ(anamorphose)というのは逆遠近法とでも言えば良いのだろうか? 例えば逆さの等脚台形(上底が下底より長い)を地面に書いて、丁度よい距離のところから見れば正方形があるように見える。作り方は、例えばルネッサンスの画家が遠近法を研究したように、ガラスの板を立てて、そこに正方形を書き、ちょうどガラス上の正方形が現実の背景にできるようにアシスタントに位置を決めさせれば良い。
ジョルジュ・ルス(George Rousse)はこの技術を廃屋の中に応用し、階段や廊下の前の空間に正方形や円が浮かび上がる錯角を起させる作品を80年代から発表しだした(ゴーグルで作家名を入れて画像検索してみて下さい)。単純な錯角の世界の変な実在感(質感)があって、私が好きな作家(だった)。彼の近年の作品が沢山発表される個展がヨーロッパ写真美術館であったので早速見に行ったのだが、思いのほかに落胆させられた。その理由の一つは世界中でものすごい量の作品を作っていて、スライドショーでこれでもかこれでもかと見せられて辟易してしまったから。結局基本はみんな一緒だから、失敗はない。でも冒険もない。大昔始めて見た時の感動は一枚一枚見る毎に薄れ、これはただの職人芸ではないかと思うに至った。実際ビデオを見ると彼は各々のスペースで、レンズを覗きながら、幾人もの現地スタッフに指示を与えて作っていた。もうネタが割れているのだから、美術館も一般人向きのワークショップ「今日はジョルジュ・ルスをやろう!」を催せばよいのにと思う。近年に変わったことというと、錯角のために壁などを新たに作ったり、壁を切り取ったりの大きな工事を加えるようになったこと。不思議さはあるものの、「やらせ」が目立って、よくやったなあと関心はするが、昔の素朴な驚きはない。彼の作品の面白さはネタを明らかにするほど不思議さを増す演出にあったのだと思うのだが。成功すると同じことばかり頼まれて大変、それをこなすには職人になるしかないのかも?
以上非常にけなしましたが、アナモルフォーズは彼の専売特許ではなく、昔から(今も)色々な人がやっています。それなのに押すに押されぬ第一人者となりえたのは視覚効果のツボを見事におさえていて、それだけのことはあるのですが、私の失恋(恋からさめた)にはかわりなし。