坂田英三 旧ブログ

2013年までのブログです

97歳のルイーズ・ブルジョワ

ルイーズ・ブルジョワの回顧展がポンピドーセンターで開かれている。六本木の森美術館前にある大きな蜘蛛の作家です。彼女の創造の源は子供時代のトラウマ:お父さんがお妾さんを家に連れて来て、家族の一員として暮らした。この話は耳にタコができた、というのも実は15年ほど前にフランスのブリジット・コナンがブルジョワを撮ったWork in Progressという3部作のビデオの日本語字幕は私がしたのだ!(バイトで数々翻訳はしたが多分一番意義の合った仕事だったと思う。特に同時に発売されたトットというブルジョワの歌の訳は名訳だと自負している) というわけで精通しているつもりだから、またかと思って見た展覧会だったが、なかなか見事だった。彼女のすごいところは、お話はいつも「お父さんとお妾さん」で変わらないのだが、表現形態が変わる。もう97歳ですよ!巨匠になってしまったからパリの画廊で見た近作はマイナーなもの限られていたようだ。それでもう活力を失してしまったものと勘違いをしていた。彼女のお話を馬鹿にしているように聞こえるかもいれないが、彼女の説明は美術論とは程遠く単純明快で気持ちがよい。「この家から出た手は救いを求めている。こちらは3本も手が出ているから、もっと大変なんだ」という具合。でも実際の作品は彼女の解釈以上に謎を秘めている。彼女の個人史を通り越してしまっているのだ。彼女の作品は知的な撹乱操作を一切必要としない。しわしわになった顔もすごくて、実は私のベッドサイドに彼女の90歳ぐらいの頃の写真が飾ってあります。