坂田英三 旧ブログ

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南ドイツのギリシャ神殿

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週末に南ドイツ、バイエルン地方のレーゲンスブルグへ行った。ドナウ川の水運の要所として中世に神聖ローマ帝国下の自由都市として栄え、17世紀には帝国議会が開催されたが、ナポレオン侵略後のバイエルン王国ではご存知のようにミュンヘンが首都とし繁栄、レーゲンスブルグは近代産業化に乗り遅れた。しかしそれが幸いして第二次大戦の空爆も免れ、ドイツの歴史的都市としては珍しく古い町並みが保存され、ユネスコ歴史遺産に指定されている。
私はフランスに住み着いて長いので、特にこの中世都市に感動はしなかったが、そこから船に乗って行ったヴァルハラ神殿(Walhalla)にびっくりした。ドナウ川を眺める緑深い丘の上に突然パンテオン神殿が現れたのだから。
ナポレオン時代から18世紀後半の絵画は古代ギリシャを憧れる「新古典主義」が大ブームで、その頃はヨーロッパの自然風景の中に古代遺跡が建っているヘンテコな光景が沢山描かれた。ルーブルなどの泰西美術館で一番退屈してしまう絵の部類だが、そのおかしな光景が実際に作られたのを見たら、「笑い」とともにある種の感動を味わった。なにしろただ新古典主義の絵の世界の理想郷のまっただ中に入ってしまったのだから。そしてそこでギリシャのエンタシスの柱の美しさにあらためて感じ入り、結果的にナポレオン帝国時代の美意識に共感してしまったのだ! あーびっくりした。
このヴァルハラ神殿を作ったのはバイエルン王国のルートヴィヒ1世。彼は芸術愛好家で当然コレクショナー、ミュンヘンの新ピナコテックも作った。その美術館にも新古典主義がいっぱい並んでいるが、私ならぬとも普通の現代人はその後の、神殿などのない、ただ自然と対峙するカスパー・フリードリヒのロマン主義絵画の数点に心動かされるはずだ。だからヴァルハラは不思議な美意識のスリップ体験だった。
ヴァルハラへはレーゲンスブルグから船で往復3時間(約1時間15分の見学時間を含む)。詳しい解説や写真はインターネット、ウィキペディアなどをご参考に。写真は船からのヴァルハラ。