坂田英三 旧ブログ

2013年までのブログです

エリオグラヴュール

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19世紀の写真創成期に開発されたHeliogravure au grain (粒子感光版画?)という版画技法がある。オフセットやシルクのように編み目があるのではなくて、松脂を使って不定形の粒子ができるアクアチントという銅版画技法と写真製法を組み合せた技術。それで刷られた写真は、画像がマイルド、かつ黒の深みが非常に広い。そして経年変化がないという利点がある。
その技術を受け継ぐパリで唯一の版画工がこのファニー・ブッシェ(Fanny Boucher)さん。アトリエの扉を叩くだれもが写真の彼女をアシスタントと勘違いするそうだが、この若くて可愛らしい女性が工房の主であり、忘れ去られた技法を現今に引き継ぐ、この道の第一人者なのだ。
だから遥々日本からFさんが技術を習いに、それに2日間お供させてもらった。
忘れられた技法と再現した功労者は写真好きの航空技術者、ルモワンヌ(Jean-Daniel Lemoine)氏。退職後研究を続け、ついに技法の再現に至った。版画サロンで彼に出会ったファニーさんは彼の指南を受け、持ち前の忍耐強さと情熱で師を越えてしまったようだ。異なった強さの酸につけて版をゆっくり一定のスピードで進めて行く版の腐食が一番の急所で、版の状態を目視して腐食を進めたり遅めたり。習得するのに5年はかかったという。

2000年に開いたファニーさんのアトリエHelio'gの紹介は http://heliog.blogspot.com/
ルモワン氏のサイトには技術概説がある http://pagesperso-orange.fr/lemoine.jd/