坂田英三 旧ブログ

2013年までのブログです

懐かしのヴァンセンヌ

昨日の酷評は何か目の敵にしているのではないかと思われた方もいるかもしれないが、はっきり言ってこの美術館は初めから気に入らなかった。これはシラク大統領の肝煎りで、かつてのオセアニア・アフリカ美術館と人類学的な人間美術館の二つと地方のエスキモーの美術を収集した財団を統合した大美術館なのだが、先ず何故すべてを一ケ所にまとめねばならぬのか? 政治的には地方分権化が謳われるのに未だに絶対王政的な発想。結果的には展示品が多すぎて観賞できないどころか、ぐるっと一回りするだけで疲れる。
この大統領の巨大妄想的美術館の犠牲になった一つが、先に挙げたヴァンセンヌの森の入り口にあったオセアニア・アフリカ美術館。ここはかつての植民地博(万博の走り。動物園もその名残りです)で建てられた、その頃の大レリーフが壁を飾る見事な建造物、内部のホールも斬新なスタイルのコロニアル風。つまりこれがプリミティブアートの美術館であるだけで歴史性がある(例えば子供たちには植民地時代を知る契機にもなる)。地上階がオセアニア美術と特別展ホール、1、2階がブラックアフリカ、3階が北アフリカ(アラビア系文化)。展示は昔ながらの陳列棚方式、大きな作品は意外に無造作に置いてあった。予算がないからか天井のペンキがはがれたりして少々うらぶれた感じではあったが作品観賞するには十分の光に満ちていた。原始芸術はマスクとか呪術品とか小品も多いから、この美術館でも全体を一気に見るのは大変であった。かつ面白いのは地下に水族館があったこと(これは今でも残った)。実はここはかつての私の家から歩いて10分で、展示の一部を観賞、その後少し魚を眺めて目を休め帰ってくるということが多かった。私の便利はさておき、これは観光地のないパリ12区の唯一の美術館だったからこれを閉鎖し、エッフェル塔近くに大美術館を作ると言うのは構想事体から気に入らなかった。こうした「僕の美術館が奪われた」個人的憤懣はありますが昨日の批判は事実ですよ。
加えて、プリミティブアートは作品の信憑性も難しい分野なのでブローカーが加担したとかの悪い噂もある。そのためか元オセアニア・アフリカ美術館の館長も人間美術館の館長も新しい美術館には加わっておりません。